2022年12月16日
今日は前回の問題の解答と簡単な解説を加えておきたく思います。皆さん、問題はできたでしょうか。難しくはなかったと思いますが、できなかった人は復習をしておきましょう。そして今回の文章を読んでもし作品にも興味が沸きましたら出典の『今昔物語』を手に取ってみてもいいかも知れません。
【問題】
今は昔、いつのころほひの事にかありけむ。清水に参りたりける女の、幼き子を抱きて※御堂の前の谷をのぞき立ちけるが、いかにしけるやあり(a)けむ、児を取り落として谷に落とし入れてけり。はるかにふり落とさるるを見て、すべきようもなくて、御堂の方に向かひて、手を摺りて、観音助けたまへとなむまどひける。今はなきものと思ひけれども、ありさまも見むと思ひて、まどひ下りて見ければ、(1)観音のいとほしとおぼしけるにこそは、つゆ疵もなくて、谷の底の木の葉の多く落ち積もれる上に落ちかかりてなむ臥したりける。母喜びながら抱き取りて、(2)いよいよ観音を泣く泣く礼拝したてまつりけり。
これを見る人、みなあさましがりてののしりけりと(b)なむ。
※御堂:仏像を安置した堂。
問1 下線部(a)、(b)のそれぞれについて、下記の例を参照して文法的に説明せよ。
例:けれ 過去の助動詞「けり」の已然形。
問2 下線部(1)について、どういうことか。前後の文脈を踏まえて説明せよ。
問3 下線部(2)を現代語訳せよ。
問4 観音とはどのような存在か。本文の内容を踏まえて30字以内で説明せよ。
【解答】
問1:
a 過去の助動詞「けむ」の連体形。
b 係助詞「なむ」
問2:谷底に落下した幼子の様子を気にかけ、取り乱している母親の様子を見て観音が不憫に思っていること。
問3:(解答例)なおのこといっそう観音に対し、泣きながら礼拝し申し上げたということだ。
問4: (解答例)人の無心の祈りを即座に聞き届ける慈悲の心を持った存在。
【解説】
問2:「いとほし」は「かわいそう」、「おぼす」は「お思いになる」の意。観音が傍線部の心情に至る原因を示す直前の接続助詞「ば」に注目すること。
問3:「~たてまつり」は謙譲語「たてまつる」の補助動詞の形。過去の助動詞「けり」は伝聞(間接的に経験した過去)の機能を持つ。
問4:本文2~5行目を参照。観音は母親の祈りに慈悲の心が動かされたのである。観音とは大乗仏教の概念である「菩薩」の一尊のことで、正式には「観音菩薩」という。その中心的な役務は、一切衆生を救済することである。
【出典の『今昔物語』について】
平安時代末に成立した説話文学。作者不詳。物語に収録されている内容は『宇治拾遺物語』や『古本説話集』などにも収録されており、内容の異同についての研究が盛ん。文体は漢字と仮名文字が入り交じる体裁で書かれている。大正時代の作家芥川龍之介は『今昔物語』を愛読し、これを翻案した作品を多数手がけている。